シンプルだからこそゼロからつくりあげる魅力に惹かれて記憶に残るような写真を撮り続ける
スマートフォンのカメラがどんどん高画質になり、今やほとんどのひとが高性能なカメラを持ち歩く時代。
スマートフォンのカメラから写真に興味をもち、デジタル一眼レフカメラやミラーレスカメラを手にして、写真撮影を趣味にしたり、カメラマンを目指したりするひとも増えつつあります。
白ホリドットコムでは、白ホリスタジオが検索できるだけでなく、ライティングスキルや、カメラマンをはじめとしたヘアメイクアーティストやモデルなどのクリエイターを紹介していくコンテンツなども増やしていきます。
2020年にカメラマンとして独立を果たした森川亮太さん。
商業撮影の傍ら、作品撮りを通してライティングスキルの向上にも日々励んでいるなかで、今回、白ホリドットコムの連載企画「白ホリストーリーズ」で、白ホリ撮影の魅力や写真に対する想い、そして印象に残っている作品を紹介いただきます。
カメラマン
森川亮太さん
テレビ局に報道エディターとして従事したのち、2020年にカメラマンとして独立。2020年より写真家 青山裕企に師事。現在はアーティストのキービジュアルやミュージックビデオのメイキングなど、音楽ジャンルに関連する撮影を主軸に活動している。
白ホリ撮影はシンプルだからこそ、ゼロからつくりあげられることが魅力
─ 普段、白ホリ撮影はどんな用途で使ってますか?
白ホリでのライティングは、本当に奥が深いので、もっともっとスキルをあげていきたいと思っています。なので、バリエーションの引き出しを増やすためにも、白ホリは作品撮りでたびたび利用しています。
商業撮影でいうと、コーポレートサイト用のプロフィール写真などを撮影させていただくこともあります。
作品撮りをしてポートフォリオを増やすことで、独立したばかりの頃と比べると、白ホリでの撮影依頼も年々増えてきました。
─ 白ホリ撮影の魅力はどういったところですか?
ロケ撮影とかハウススタジオでの撮影だと、どうしてもロケーション頼りというか、良くも悪くもロケーションに左右されてしまいます。天気にも左右されますし…。不確定要素がすごく多いんです。
でも、白ホリってもう何もないから。
全部自分。
自分で考えたものだけで構成できるっていうのは、白ホリ撮影の最大の魅力かなって思っています。
逆に言うと、それが難しいところでもあって、自分の中でこういうように撮りたいっていうイメージがないと、ありきたりなものになってしまう。
例えば、モデルさんの雰囲気が柔らかいから、そこを活かして柔らかく撮ろうとか。
逆に、光をパキッとさせて、格好よく撮ってみるのはどうだろうかみたいな。
兎に角、白ホリは、シンプルの極みなので、 モデルさんをもっと活かすためには、どんな服がいいだろうかとか、どんなヘアメイクがいいだろうかってことをずっと考えています。
自分の頭の中にある理想っていうものに近づけるために、ゼロから考えられるっていうところは、ものすごい魅力的です。
高画素機で大口径レンズがやっぱり安心
─ 普段使っている機材はなんですか?
ライカ SL2です。
ぼくは、ライカに惚れ込んでいるので、白ホリでもロケ撮影でもだいたいライカを使っていますが、特に、白ホリ撮影では、高画素で撮れるっていうのは重宝しています。
─ 高画素機がおすすめってことですか?
そうですね、白ホリ撮影だと、特にそう思います。
センサーサイズが、フルサイズか中判サイズがいいです。
ソニーのα(アルファ)Rシリーズとか、富士フィルムのGFXシリーズとか。
ぼくがつかってるライカ SL2も高画素機の部類で、有効画素数は4700万画素なんです。やっぱり高画素機は、白ホリで活きるなって。
─ 活きるとは?
白ホリ撮影は、背景になにもないわけですから、被写体によりフォーカスする撮影になります。つまり、被写体をディテールまでしっかりと映すことができるカメラが、白ホリとは相性がいいと思ってます。
もちろん画素数だけで測れるものではないとも思っているのですが、高画素だとクロップのしやすさとか、融通が効きます。
─ レンズについてはどうですか?
レンズも同じ考えで、ズームレンズでも単焦点レンズでも、そこは好みや仕事の用途によって使い分けてもいいと思うのですが、やっぱり大口径のほうが精細に撮れると思うので、ぼくは大口径が好きです。
大口径レンズは、ある程度しっかり絞ったとしても、絶対値としての光の取り込み量が多いので、光を正確に捉えることができます。そうすると、色合いも豊かに表現されて、モデルさんの肌の色や衣装の色などが、ディテールまで自然できれいに残ってくれます。
写真のなかに違和感をいれない
─ 白ホリ撮影ではどんなところにこだわったりしていますか?
ぼくのカメラマンとしてのスタンスのひとつに「 写真のなかに違和感をいれたくない」というのがあります。例えば、ふんわりしたイメージのモデルさんをパキッと格好よく撮るっていうときにも、そこに違和感がうまれないように、その人の格好いい面を探してアプローチしていきたいと思っています。
その人をガラッと180度変えることによって格好いい写真を撮るのではなく、格好いい写真も似合うよねっていうようにしたいなと。
だから、撮影前には、モデルさんに対して、パーソナルカラーや服の好みなどをきちんとヒアリングして、違和感のでないアプローチの方法を探しています。
─ ヘアメイクへのこだわりとかもあるのですか?
ヘアメイク(アーティスト)さんともご一緒して、作品撮りをすることもありますが、モデルさんに対するヘアメイクさんの考えるイメージというのもあったりします。
そういったパラメーターが増えるようなときにも、違和感とか引っかかりみたいなのは、なるべく少なくしたいなっていうように考えて、ライティングを組んだりしています。
常日頃からのリファレンスづくりが上達のキーポイント
─ 撮りたいイメージってどうやって決めているのですか?
イメージを膨らませる時には、PinterestやInstagram、あとはYouTubeとか、色々あると思いますが、雑誌とかもそうですけど、そういった先人の写真をたくさん見たうえで、こんな写真が撮りたいなと思うものがあったら、そのイメージに近い写真を集めています。
そうやって、自分のなかでのリファレンスを作ったうえで、ライティングを組んで撮ってみて、それらに寄せていくっていうことはよくやります。
一線で活躍してるフォトグラファーの方々でも、きっと、頭のなかにはリファレンスみたいなものがあると思うのです。それは、過去の自分ということもありますし、ほかの誰かがすでに作ったビジュアルイメージかも知れないけれども、ライティングのバリエーションがはいった引き出しというイメージです。
ぼくは、まだまだ引き出しを増やしていっているフェーズなので、先人のフォトグラファーの人たちの作品をリファレンスとすることが多いです。
─ リファレンスを再現するのって難しそうですね。
まさにそのとおりです。
光の硬さや影の向きなどからヒントを得て、照明の数や配置、アクセサリーはこうだろうなと予測して再現しようと思うわけなんですが…
実際に撮ってみると、全然思った通りにならない。あれ?みたいなことはたくさんあります。
ライティングは「光」よりも「影」が大切
ライティング撮影をはじめたばかりだと、ライティングって、ついつい光を見ようとする人が割と多いと思うのですが、 ライティングってどちらかというと、影をどう作るかがすごく大切になります。だから、影が汚いと、そのライティングって多分汚いんだと思います。
いかに、違和感のないきれいな影をどうやって作るかだと思ってます。
光のイメージや質感は、目指していたイメージに近いものが再現できたとしても、影が思ったように綺麗に出ないことはあります。
このライティングだと影がなくなるはずなのに、思わぬところに意図していない影ができてるとか。例えば、モデルさんに不必要な影が落ちてるなみたいな。
なんかちょっと思った通りじゃないなって思うことはすごく多くて…
─ そんなときはいろいろ試すと。
本当にそうで、もう試すしかないです。
例えば、影が強く出過ぎてる場合には、 カポックに当てて跳ね返してみようとか。それでも、だめなら、弱めにバウンスで反対側も光を当てようとか。
そうやって、そのときの自分がもっている引き出しを使いながら、トライアンドエラーの連続です。
白ホリで撮った印象的な作品
ここからは、白ホリスタジオで撮影したなかで印象的な写真をピックアップして、それぞれの写真についてエピソードをお聞きしていきます。
Yohji Yamamoto(ヨウジヤマモト)からはじまった
ぼく、Yohji Yamamotoの服が好きなんです。
同じように、Yohji Yamamotoが好きなカメラマン仲間がいるのですが、その仲間と、Yohji Yamamotoをつかった作品撮りがしたいねっていうことを話していたんです。
だから、この作品撮りのときは、モデル先行ではなく、撮りたいイメージ(服)先行で、モデルさんをアサインしました。 Yohji Yamamotoを着ているひとを格好よく撮るっていうのが一番にあったので。
─ 黒と白のグラデーションが格好いいです。
ありがとうございます。
そこは、この作品のこだわりのひとつでして、ライティングは、モード系とかビューティー系で撮ろうっていうように決めていました。
Yohji Yamamotoって、黒がすごくきれいなブランドなので、黒をきれいに表現したいっていうのがありました。でも、ただ真っ黒っていうのは、すごくもったいないなって考えていたので、黒の背景紙を敷くのではなく、グラデーションで白から黒にっていうのはどうだろうかと。
黒の中にもいろんな要素があるよみたいなところを、作りたいと思って臨んだ撮影でした。
─ この作品で難しかったところとかありますか?
このライティングの組み方は、なんとなく(自分の引き出しに)イメージがあったんですが、モデルと背景を切り離して考える時って、なるべく背景とモデルに距離が欲しいんです。
背景用の照明とモデル用の照明の2灯をつかっていて、背景のグラデーションは背景にむけたライティングでつくっているんですが、モデルと背景の距離がないと、モデルにむけた照明が背景に干渉することがあるんです。
今回は、レンズマン 六本木で撮影したのですが、コンパクトなスタジオだとスペースの都合上、モデルと背景との距離を稼ぐことが難しいことも多いので、そういうときはどうしても背景に干渉してしまうんです。
なので、モデルに当てる照明を、より上方向からにするといった工夫をしています。
それこそ、グリッドを使ったり、バーンドアで遮ったりして、背景への干渉を抑えるようにしています。でも、今度は、モデルに対して、上方向からの光になるので、キャッチライトがきれいに入らなくなるんですよね…。
だから、モデルさんには、ほんの少し顎もあげてもらって、少しだけ上を向いてもらっています。そうやって、モデルの目に、きれいなキャッチライトをいれるようにしています。
3,850円/1時間の低価格で利用できる白ホリスタジオ。また、1,650円/1時間を追加で支払うことでレンタル機材も使い放題です。パック料金やスタジオ利用のサポートなども充実しており、白ホリスタジオに不慣れな方でも安心して利用することが可能です。
予想外の成りのグレーで背景にきれいなグラデーション
─ この写真もなにかコンセプトみたいなものがあったんですか?
いえ。この作品は、イメージ先行じゃなくてモデル先行で撮った作品です。
まず、このモデルさんと作品撮りをしようってなったときに、モデルさんの顔立ちが可愛らしいこともあって、格好いい系の撮影をあまりしたことがない方だったんです。
だけど、(21歳を迎えて)大人といえる年齢にもなったし「格好いいのもできるよ」みたいなことをやりたいみたいな流れになっていて。
そうしたら、普段は可愛い系のワンピースとかスカートとかを履いてるので、今回はパンツ系で撮ってみようというところからはじまりました。
─ 確かに、顔の影とかが格好いい感じです。
この作品では、照明をほぼ真横から当てていて、顔半分に影を落とすことで、コントラストをしっかりと出すようにしてみました。
おおむね意図したものは再現できたんですが、影の部分が思ったよりも暗くなっちゃったんです。この写真は完成系なんですが、照明を調整する前は、影によって顔半分がほぼほぼ見えなくなってたんです。
顔立ちがきれいなモデルさんなので、さすがに、ちょっともったいないなと思って。影の部分も、しっかり輪郭は見せたいなと思ったんです。
それで、真横からの1灯だけじゃ無理だなと思ってからは、影の部分に対して、カポックをつかって弱くバウンスさせた光を当てたんです。
そうしたことで、モデルさんに対する光のアプローチは、イメージ通りにできたかなって思ったんですけど…
─ 別の問題が?
そうなんです。
結果的には、背景にきれいなグラデーションができあがってるんですが、このグラデーションは、いわゆる成りのグレーといって、意図したわけではないグラデーションなんです。
つまり、たまたま出来ちゃったってことです。
結果的に、好きなグラデーションだったからよかったわけですが、もちろん、自分の引き出しにはなかった予想外のグラデーションだったんです。
─ もっと全体的に背景が暗くなるはずだったと。
まさに、そう。
グラデーションではなく、均一なグレーになるつもりだったんです。
顔の半分につくった影の部分をバウンス光で起こしたことで、背景にもバウンス光が干渉しちゃったんです。
この作品は、レンズマン 芝公園 Ast.で撮ったんですが、奥行きが8mちょっとしかないと、どうしてもモデルさんと背景の間に距離があまり作れず…今の、ぼくの引き出しのなかには、それを解決する方法がなかったんです。
そんなふうに、作品としては、自分好みの良い作品になったって思ったんですけど、そういったところで、自分のなかで意図しないものが紛れ込んじゃったっていうところ。ちょっと悔しい部分ではあります。
芝公園すぐそばの立地にある1時間3,850円の低価格で利用できる白ホリスタジオ。1時間1,650円を追加で支払うことでレンタル機材も使い放題です。パック料金やスタジオ利用のサポートなども充実しており、白ホリスタジオに不慣れな方でも安心して利用することが可能です。
1枚でも記憶に残るそんな写真を撮っていきたい
─ 最後に、これからの取組みとか目指すところを聞いていいですか?
最近の流行りということもあるんですが、InstagramやTwitterとかでは「組写真」っていわれてますが、写真複数枚を並べて1つの組にしてよく表現されています。複数枚を載せたほうが、 インプレッションとかエンゲージメントにも繋がりやすいっていうのもあるんだと思います。
でも、ぼくは、1枚で記憶に残る写真を作りたいと思っていて、ちゃんと自分のなかのイメージを、ロジックで組み立ててライティングを作って撮る、そんなカメラマンでいたいなと思っています。
だから、音楽が好きなので、ミュージシャンのアー写(アーティスト写真の略)とか、ジャケット写真とか、ああいったものは、1枚にビジュアルの強さを全部入れ込むわけです、広告撮影も同じです。
1枚で決めにいく。
そんな写真を撮れるように、これからも自分の引き出しを増やしていきたいと思います。